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出典:amazon

2017/04/26
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晴れやかなスタートの、はずだった【203号室】

地元を離れて、春から新生活。新しい土地で素敵な暮らしを送るはずだったのに。じわじわと恐怖が忍び寄る、現代の幽霊屋敷譚。

目次

新天地、新生活

4月は始まりの季節です。進学や就職などで、新しいスタートを切った方も多いことでしょう。この物語の主人公もその一人。地方から東京の大学に進学し、憧れの一人暮らし。

とはいっても、都心の物件は家賃が高すぎます。彼女が入居したのは郊外と言えば聞こえはいいものの、お世辞にも都会とは言えない住宅街のワンルーム。インテリア雑誌に載るような部屋を作りたいけれど、予算の都合で日用雑貨は量販店と100円ショップの品がほとんど。

夢に見た一人暮らし像とは大きな隔たりがありましたが、彼女の心は晴れやかです。狭い部屋でも、その空間を自分の自由にできるのですから。慣れ親しんだ実家の「自分の部屋」にはもちろん愛着もあるけれど、子どものころから積みあがった思い出がちょっとばかり鬱陶しいのも事実です。

しがらみのない、まっさらな部屋で始める新しい生活。それは素敵なものになると、疑っていない彼女でしたが……。

積み重なる不安

最初の予兆は、悪夢でした。

仮眠のつもりが、引っ越し疲れで思わず深く眠ってしまったときの嫌な夢。内容のよく思い出せない、だけれどとにかく不愉快な夢です。

さらに、そこから目覚めた直後の異臭。まだたいして料理をしていませんから生ごみも少ないし、なにより彼女自身、潔癖に片足を突っ込んでいるようなたちでしたから、自分で出したごみの匂いではなさそうです。

排水管など、アパート自体になにかあるのかと思って水回りの様子を見ているうちに、匂いは消えてしまいました。
彼女の心には、漠然とした不安だけが残ります。

余計なひとこと

漠然とした不安を伴う、異常というには小さな異常を、彼女は気のせいで片づけました。大学とアルバイトを始めて、友達、もっと言えば彼氏ができれば、このさみしさも吹き飛んでしまうと自分に言い聞かせて。

大学が始まって間もなく、あまり堅苦しくないテニスサークルに所属して、アルバイトも決まり、充実した生活を送っている主人公。

彼氏はまだいませんが、気になる男性はもういます。オリエンテーリングで話した同じ学科の同級生。本など読まないのに、彼を追いかけてミステリー同好会に出入りするくらいには、好意を抱いていました。

努力が実って雑談もできる間柄にはなりましたが、彼はいささか無神経な男だったようです。彼女が自分は203号室に住んでいること、その部屋番号が自分の気持ちに妙になじむことを打ち明けると、彼は言いました。

「その親近感は、203高地からきているんじゃないの?」

聞き返すと彼はご丁寧に説明をしてくれます。日露戦争で日本軍が戦って、多数の死者を出した土地のことだと。彼女は彼の博識に感心もしますが、気に入っていた部屋番号にケチをつけられたような気分です。そんな血なまぐさいいわれの土地と自分の部屋を結び付けられて、不快にならないほうが難しいでしょう。

都合の悪いことに彼女は、戦争というものに多大な恐怖心を抱えていました。小学生の時、視聴覚室で見せられた映像記録がトラウマになっていたのです。それがいっそう、彼女の不快感をあおりたてました。
 
このことは部屋に対する新たな不安の一つとして、彼女の心に積み重なります。

濃さを増す闇

その不安を後押しするように、部屋での異変もよりはっきりした形を取り始めます。

ある時は、帰宅してすぐのはずなのに、妙に床が生暖かい。それも全体ではなく一部分だけ、温度もちょうど、人肌ぐらい。直前まで人の座っていた椅子に腰かけたような具合です。

まるでさっきまで誰かがそこにいたようです。もちろん住んでいるのは彼女1人、自由に出入りできる人物は他になく、ペットも飼ってはいませんから、そのようなぬくもりが床にある時点で異常事態でした。

強引にでも理由付けをして自分を納得させようとする間にも、すっかりおなじみになってしまった、正体不明の異臭が鼻を突きます。

またある時は、夢うつつで聞いた足音。機嫌が悪そうな、おそらくは男の足音です。隣にあいさつに行ったとき、いかにもまともな職についていなさそうな男が出てきたのを思い出して、半分寝たまま不愉快になる彼女。

きっとあいつだろうとあてにしますが、足音は隣室を通り越してだんだん近づいて来て、ついに自分の足元に、薄汚れて筋張った足が――。

飛び起きると足は姿を消していましたが、おぼろな意識の中で聞いた音のリアルさ、そして青黒い足の不気味なビジョンは不安をかきたてるばかりです。そして、窓を閉め切っているはずなのに、微かに揺れるカーテン。

不安な現象は回を重ねるごとに現実感を増してゆき、安らぐ場所であるべき「家」は恐怖の苗床へ変容します。周囲に頼ろうとしても、思ったような安心感は得られず、彼女の生活そのものが崩壊に向けて転げ落ちてゆきます。

あなたの部屋は、大丈夫?

参考元

  • ・203号室光文社

当社は、本記事に起因して利用者に生じたあらゆる行動・損害について一切の責任を負うものではありません。 本記事を用いて行う行動に関する判断・決定は、利用者本人の責任において行っていただきますようお願いいたします。

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