だらっと放課後、しゃべるだけの青春『セトウツミ』【漫才か？】

シュールな笑いが生み出す「脱力青春ムービー」

菅田将暉と池松壮亮の【かけあい】がたまらない

いわゆる「会話劇」である本作『セトウツミ』。極端に登場人物が少なく、場面転換もほとんどありません。殺人も壁ドンも起こらず、ただ主演の2人が喋るだけで物語は進んでいきます。

それなのに、なんだこのおもしろさは……。

主人公2人を演じるのは今をときめく旬な俳優、菅田将暉と池松壮亮。2016年、日本映画に引っ張りだこの若手筆頭の俳優であり、今作以外にも『ディストラクション・ベイビーズ』『デスノート Light up the NEW world』など、共演作が相次いで公開されています。

本作で天然のお調子者の高校生・瀬戸を演じるのが菅田将暉。クールで偏差値の高そうなメガネ男子高生・内海を演じるのが池松壮亮です。この2人の河川敷での意味のない会話が作品の主軸となっています。

なぜか共感してしまう、無意味な放課後の【おしゃべり】

ケンカに明け暮れるわけでもなく、ドSの恋人にドキドキするわけでも、甲子園を目指すわけでもない本作。青春映画の王道シーンは「走る」場面であり、その疾走感失くして青春映画は成り立たないはず。

しかし、『セトウツミ』にそんなシーンはありません。

それなのになぜか共感してしまう「何も起こらない青春」。ひまつぶしに友人と無内容なおしゃべりを続ける放課後に、誰もが懐かしさを覚えるのではないでしょうか？

主演の2人の関西弁での息の合った掛け合いは互いに「心地よくフィットした」旨を後のインタビューでは語っています。奔放な瀬戸とインテリの内海というキャラクター設定も、俳優の2人の個性にぴったりのハマり役です。抜群に笑える等身大の作品に仕上がっています。

『セトウツミ』登場人物

瀬戸 小吉【菅田将暉】

高校２年生の瀬戸 小吉。サッカー部の注目のルーキーだったのですが、試合中に先輩をさしおいて勝手にフリーキックを蹴り、退部させられます。
それ以降、河川敷で暇をつぶします。

家で猫を飼っていて、溺愛しています。樫村に片思い中です。
性格は奔放かつ天然。いつも内海に冷静に突っ込まれます。

内海 想【池松壮亮】

塾に行くまでの空いた時間を河川敷で過ごす内海 想。非常にクールな性格で頭が良く、むずかしい言葉を使います。基本的に人を寄せつけない雰囲気。家族の話がタブー。

瀬戸の憧れる樫村に好かれています。しかし、本人は興味なし。

樫村 一期【中条あやみ】

お寺の娘で内海に恋をしている同級生。瀬戸にアプローチされています。内海と瀬戸の仲に嫉妬。

『セトウツミ』の監督・大森立嗣

花村萬月の芥川賞受賞作『ゲルマニウムの夜』を原作とした同名作品で長編映画デビューを飾った大森立嗣監督。父親は舞踏家で俳優の麿 赤兒（まろあかじ）、実弟は実力派俳優として名高い大森南朋です。

『ゲルマニウムの夜』の後は『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』『まほろ駅前多田便利軒』『ぼっちゃん』『さよなら渓谷』と話題作、社会派作品の監督として数々の賞を受賞しました。

本作はそのフィルモグラフィのなかでも"笑い"を前面に押し出したコメディ作品として異色です。しかし、"笑い"のなかにどこか漂っている”悲しみや切なさ”が監督の作家性として作品に滲み出ています。

今秋には三浦しをん原作の『光』（井浦新、瑛太、長谷川京子共演）が公開予定の大森監督。これからの活躍にも注目していきたいですね。