本当は怖い?!ちょっと危険な日銀総裁再任のニュース

2018年4月8日は日銀総裁の任期でした。

日銀総裁の任期というのは金融業界にとってはビッグイベントで、「今度の日銀総裁は誰になり、どんな考え方をしているのか」と金融関係者は戦々恐々とし、新しい日銀総裁の考え方を少しでも予想するため、新総裁の著書や過去の発言を読み漁るものですが、今回の日銀総裁人事は黒田現日本銀行総裁の再任といったちょっと意外な人事案になっています。

一般の方には「再任の方が金融政策は変わらなくていい」と感じるかもしれませんが、日銀総裁の再任は近年例が無い、ちょっと危険な人事案です。

ちょっと怖い日銀総裁の再任続投のニュース、なぜ危険なのかについて解説します。 

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1.歴史ある日銀総裁の系譜、再任は1961年以来

日本銀行総裁の系譜をたどっていくと、今回の日銀総裁の再任と言うニュースは異常であると感じます。

前回日銀総裁の再任人事があった1950年頃からの歴代日本銀行総裁、在籍年数、所属していた主な組織を見ていきます。 

名前 在籍年月 年数 所属していた主な組織
 山際正道 1956年11月~1961年11月 5年  大蔵省(現財務省) 役人
 〃  再任:1961年11月~1964年12月  約3年  大蔵省(現財務省) 役人
 宇佐美洵 1964年12月~1969年12月 5年  三菱銀行 民間
 佐々木直 1969年12月~1974年12月 5年  日本銀行
 森永貞一郎 1974年12月~1979年12月 5年  大蔵省(現財務省) 役人
 前川春雄 1979年12月~1984年12月 5年  日本銀行
 澄田智 1984年12月~1989年12月 5年  大蔵省(現財務省) 役人
 三重野康 1989年12月~1994年12月 5年  日本銀行
 松下康雄 1994年12月~1998年3月  約3年  大蔵省(現財務省) 役人
 速水優 1998年3月~2003年3月 5年  日本銀行
 福井俊彦 2003年3月~2008年3月 5年  日本銀行
 白川方明 2008年3月~2013年3月 5年※副総裁としての職務代行期間も含む  日本銀行
 黒田東彦 2013年4月~2018年4月 5年  財務省 役人
 〃  再任 2018年4月~???    財務省 役人

日銀総裁の任期は5年間、最後に再任の人事案があったのは1961年ですから、およそ57年ぶりの再任人事という事になります。

1969年12月17日に総裁に着任した佐々木直元日銀総裁以降の最後に所属していた組織を見てみると、2003年3月20日の福井俊彦元日銀総裁まで大蔵省(財務省)出身者と日本銀行出身者の交代制で選んでいるように見える事がわかります。

当然、その期間に再任はありませんが、今回は財務省出身者である黒田日銀総裁が再任と言った人事案になっています。

 

2.再任が今までなかったことには、ちゃんとした理由がある

何故1961年以降日銀総裁の再任が行われなかったのでしょうか。

再任が近年ほとんど行われなかったのには、「通貨の信頼性を維持するためには日本銀行総裁の再任は望ましくない」といったキチンとした理由から、行われてきませんでした。

例えば「日本の全ての税率をゼロにした場合、国家が破綻するかしないか」考えてみましょう。

国家は警察・消防署・救急車などの国民の生活を維持するサービスを用意しており、そこで働く公務員の給料は税金で賄われています。

一方で日本銀行は円紙幣を無限に創出する事が可能です。

税率をゼロにしたとしても、警察官・消防士・救命救急士の給料を日本銀行が円紙幣を創出して支払ってしまう事によって、理屈上国家は税率を0にしても破たんしません。

もちろん、この様な極端な政策を行うと、円紙幣が価値を持たなくなってしまう副作用が発生します。

そうなると海外の人からは、無限に創出されてしまう円紙幣は信頼がおけないものに思われ、ドル等他の通貨との交換レートが悪化、下手をすると交換すらできなくなります。

ドル紙幣が交換できなくなると、海外から資源を購入する事も出来なくなるため、物価は高騰し、最悪の場合円紙幣を受け取ってサービスを提供する人が居なくなります。

警察官・消防士・救命救急士の公務員も給料を円紙幣で貰ったところで生活に困るため、誰もサービスを提供しなくなり、結果として国家は破綻してしまいます。

すなわち、1992年にロシアで起こった、物価が前年比で26倍になるハイパーインフレーションも起こりうるのです。

この様に日銀総裁は信用を創出し予算を生み出す事ができる、税金と国債による借入に縛られた政府よりも強い力を持っていますので、中央銀行総裁の人選には気をつけなければいけません。

過去の日銀総裁の人事でも、財務省出身者を日銀総裁に据え続けると、国債を多く発行して借金をしたがる政権の言いなりになり、金融政策を過剰に実行し円紙幣をばらまき信用力を損なう恐れから、財務省出身者を日銀総裁に2度続けて充てる人事は行われていませんでした。

日銀総裁の権力が暴走しないように、極端な考え方を持つ人を日銀総裁に据える事は勿論、財務省出身の日銀総裁を着任させ金融緩和を実行した後には、日本紙幣の信用力を守る側である日本銀行出身者を挟むことによってバランスをとるようにしていたのです。

ところが、今回は財務省出身で過去に例が無いほどの規模と方法をとるリフレ派と知られる黒田日銀総裁が再任となる、バランスをとっているとは微塵も感じられない人事案になっています。

満期まで任期を全うしますと、次の交代時期は2023年となり、異例の日銀総裁の長期政権を財務省出身の偏った思想を持つと言われている人が担うわけです。

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3.日本は既に普通に借金を返せない

なぜ『財務省出身者の後には日銀出身者を総裁にしてバランスを図る』習慣がなくなってしまったのでしょうか。

これには日本の借金の額と財政再建が関係してきます。

一般的な家計で借金を返すためには、収入を増やしたり生活費等を減らしたりするといった当たり前の行動を行います。

本来であれば日本銀行に頼る事なく、小負担高福祉である現状の社会福祉制度を改める事が重要です。しかし、少子高齢化の日本で高齢者層への高福祉を下げてしまうと選挙に負けてしまうため、社会福祉制度は聖域となってしまい、政治家は削減政策を実施する事ができなくなっています。

そこで借金のために支出の削減と収入の増加を図るのではなく、中央銀行の政策によって解消する政策に向けて舵を取る事になります。

借金の増加には目をつぶり、日本銀行に国債を引き受けてもらってインフレーションを起こすことによって、負の資産である借金を目減りさせていく政策を実行しています。

この中央銀行を使った借金の返済は、言うならば「薬での治療が難しくなった癌患者に外科手術を施す」のと似ており、仕方がない部分もありますが、今後どの様な副作用が発生するかは誰も予想は出来ません。

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4.前回日銀総裁再任があった時代はなにが起こった?

前回再任があった日本銀行総裁人事を遡って見ると、1956年に就任した山際正道総裁以来となります。

1956年は終戦間もない時代です。山際正道氏は任期交代から5年間務め、二期目は3年半のところで任期途中で退いています。

来歴は大蔵省(現在の財務省)に入省、大蔵省次官に就任後、日銀総裁に就任したバリバリの役人出身の日本銀行総裁です。

日本銀行総裁に在職中は、大蔵省と歩調を合わせながら高度経済成長の下で公定歩合を引き下げる超低金利政策を取っており、現在実行されている金融政策と似ている部分があります。

1956年から退任した1964年の物価水準を見てみると、

1956年(就任時)
大卒初任給(公務員)8700円 高卒初任給(公務員)5900円
牛乳:13円 かけそば:30円 ラーメン:45円 喫茶店(コーヒー):50円
銭湯:15円 週刊誌:30円 新聞購読料:330円 映画館:140円

1964年(退任時)
大卒初任給(公務員)17100円 高卒初任給(公務員)12400円
牛乳:18円 かけそば:50円 ラーメン:60円 喫茶店(コーヒー):70円
銭湯:23円 週刊誌:50円 新聞購読料:450円 映画館:300円

大学初任給は高度経済成長も重なり倍くらいになっており、それぞれの商品は大体1.5倍から2倍位に上昇したイメージです。

この時代を過ごした人は、どんどん上がっていく物価と共に給料も上がっていたので、今とは違う感覚で日々の生活を過ごしていたのかなと思います。

この後1970年代に入り、田中角栄総理の『日本列島改造論』で現代の物価と給与水準近くまで一気に駆け上がりますが、戦後からの高度経済成長と物価上昇の土台は再任人事案で就任した山際正道氏が作ったと言ってもいいかもしれません。

金融政策の恐ろしいところは、実行している時よりも、数年以上経ってから物価が上がり始め、止める手立てが無い点です。

今後日本でも長期にわたった金融政策の影響が出て、物価が制御できなくなる事態になっても不思議はありません。

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5.重要な日銀総裁人事、あっさり再任決定

多くの人への影響が大きい重要な日銀総裁人事、2018年3月16日に国会に通り、あっさりと黒田日銀総裁の再任が決定してしまいました。

国会で議論復旧しなかったので「そんな事あった?」と感じる人も多いかと思います。

60年近くなかった危険な再任案なのですから、もっと国会で議論を尽くしてほしかったのですが、与党はともかく野党が森友問題に夢中で、当たり障りのない反対しかしなかった為、当たり前のように再任案が可決されてしまいました。

特定秘密の保護に関する法律やテロ等準備罪の時はプラカードを持って、泣きながら抗議をしていたのに、国民の生活に密接に関係している日本銀行人事案に抗戦をしないとは、野党は何処の国の政治家なのか正直わからなくなってしまいます。

再任案の危険性について議論や話題にすらならなかった事は悲しい事でしょう。

日本銀行総裁の金融政策は大きな力を持っていますが、物価の下落は止める事ができても上昇は止める事ができないと言われています。

何はともあれ、もう決定してしまった日銀総裁の再任案、近年無かった人事案になりますが、今後の副作用を充分に考えた運営を行って欲しいと願っています。

 

まとめ

・日本銀行総裁人事案が1961年以来の黒田現日銀総裁の再任案で可決された

・近年の日本銀行総裁は財務相出身者の後に日本銀行出身者を据える事で副作用が起こらないようにバランスをとる人事案になっていたが、今回は近年のバランス考慮を一切無視した人事案となった

・再任は副作用の危険性があり異例のことだが、野党はほとんど抵抗せず可決

・次の任期は2023年で、日本の将来に悪い影響が出てくるかも

著者:先ず隗より始めよ

現役金融マン。証券アナリストの資格あり。ちょっとマニアックな金融知識やニュースをわかりやすく書いていきます。

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