『浮動株が少ない株は株価が上がるの?』の疑問を徹底検証

株式売買の初心者を脱して初級者にもなると『浮動株』という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。
初級者から中級者にもなれば、『浮動株が少ないので値が軽くて上がりやすい』『浮動株が多いので材料が出ても直ぐに売りが出る』と経験則を聞いたこともあるかと思います。
そこで巷にあふれるアノマリーの一つの『浮動株が少ない株は株価が上がるの?』といった疑問を徹底検証してみたいと思います。

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1.そもそも『浮動株』とは?

『浮動株』についてわからない方に簡単に解説しますと、上場企業の株式は誰でも購入することが可能で、四季報を見ればわかるように、大株主には色々な人や会社が名前を連ねています。

四季報の株主構成をじっと見ると株式毎に一つ一つその違いがある事がわかります。
例えば、9973小僧寿しの大株主の保有率を見てみると、
1位東洋商事13.7%
2位日証金2.8%
その他の株主は2%未満の保有率という事がわかります。

東洋商事は小僧寿しと資本提携や創業者の関連会社という繋がりは特にないようです。
それに対し、3135マーケットエンタープライズの大株主の保有率は、
1位31.6%
2位小林泰士さん26.5%
3位加茂知之11.9%
と続いています。

3位の加茂さんは専務取締役で、2位の小林さんはこのマーケットエンターブライズ社の社長を務めています。1位のWWG者は社長の資産管理会社の様です。

両銘柄にはどのような違いが出てくるのでしょうか。
3135マーケットエンタープライズ社の場合を考えてみましょう。

株価が上がったからと言って、マーケットエンタープライズ社の社長と専務は持ち株を売却したりするでしょうか。
殆どの社長は会社の権限を維持するために株式を持ち続けますので、そう簡単には売りが出ていきません。

業績が悪く、株価が下がった時も同じように会社への影響力を考えて株を売ることはなかなかできないでしょう。
マーケットエンタープライズ社の1位~3位で合計70%の株式を保有しており、この70%はそう簡単に売られる事は無いと言った目論見になるわけです。

逆に小僧寿しですと、株主と会社はなんのしがらみもありませんので、業績が悪ければ大量の売り注文が出てきて、好材料を発表すれば利益確定の売りにさらされる可能性が高くなります。

板を見ていてもマーケットエンタープライズ社の板はスカスカで、売り指値も買い指値もほとんどないのに対し、小僧寿しの板は厚い板を形成していて材料が出ても中々ストップ高まで行きそうにありません。

このように、マーケットエンタープライズ社の様に発行済み株式の内、自己株式、役員の保有株など持続的に保有させる見通しが高い株式が『固定株』とよばれ、株式市場に流通する可能性が高い株式が『浮動株』とよばれ、『浮動株が少ない銘柄は上がりやすい』と言われる根拠となる考え方になっています。

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2.データは東証上場3858銘柄から抽出

それではいよいよ実際のデータを計算していきます。
今回の集計をするのにあたって、銘柄は東京証券取引所の3858銘柄(4月20の時点)をデータとして採用しました。

株価が高い状態であるのかを判別するのは各企業が出している利益の予想値から計算したPER(株価収益率)を用います。

PERは利益に対して株価が割高であるか割安であるかを判別する数字ですので、もし仮に『浮動株が少ない銘柄は株価が上がる』のであれば、当然PERは高くなる水準まで買われるはずです。

抽出データと採用データのルールは以下の4つの様にします。
①PERは上場会社が出している予測値を情報ベンダーより取得して採用
②赤字の企業はPERが算出されない為データから除外
③PERを順位付けした時、サンプル数の上位と下位5%はPERの異常値としてサンプルから除外
④浮動株比率は東京証券取引所の『浮動株比率の算定方法』をもとに情報ベンダーが計算した数値を採用する

ことによりサンプルを抽出して、平均PERを見比べていきます。
もし仮説が正しいのであれば浮動株が少ない会社の方が利益に対して株が買われやすい(イコールPERが高くなる、株価が上がりやすい)といった結果が出ると思われます。

3.集計結果はこうなる

上記の手法で計算したところ、残ったサンプル数は2,904個に絞られ、平均PERは以下の様になりました。 

浮動株比率 サンプル数 平均PER
20%以下 86 30.94
20%超30%以下 262 22.23
30%超40%以下 387 19.91
40%超50%以下 456 19.54
50%超60%以下 449 17.36
60%超70%以下 384 18.04
70%超80%以下 207 17.38
80%超 673 20.98

浮動株比率20%以下はPERが異常に高いです。
ただこれはサンプル数が少ないためかもしれませんので除外して考えなければいけないかもしれません。

注目したいのは浮動株比率が20%超30%以下の平均PERが22.23%、30%超から50%以下が平均PER19倍台に対して50%~80%以下は17~18倍台に逓減していく傾向が見られます。対して80%超は逆に20倍台と平均PERが高く、再び株価が上がっている傾向がみられるようです。

これらのデータから考えられることは、浮動株比率が30%以下、つまり70%近くが創業者などの固定株主が保持している株は、市場に出回る流通量も少なく株自体がプレミアムの価値も考慮され、平均PERが高く割高な水準まで買われる影響があるとみられ、『浮動株が少ない株は株価が上がりやすい』という説は、一定の結果が伴っていると言えなくもありません。

30%超~80%以下までは浮動株が多くなるほど平均PERが徐々に下がっていく逆相関の形をとっているように見えます。
この面からも浮動株が多くなると株価はPERが高くならない、つまりキチンと利益を出しているのに株価が反応しなくなると言えるかもしれません。

良くわからないのは浮動株が80%超の時、平均PERが20.98倍と再び高くなる点です。
他の比率は浮動株の多さと利益に対する株価の低調さの関係がみられたのですが、この部分だけこの傾向がみられません。

この理由を考えてみたところ、『浮動株率80%以上になると創業者が会社の株主総会で方針を自由に決定できない』事が影響していると考えられます。

通常、上場企業の社長が自身の会社を株主としてもコントロールしたい場合、20数%~30%台程度株式を持っていれば十分とされます。
個人投資家の全てが議決権を行使するわけでは無いので、株の過半数を持っておく必要は必ずしもないのです。

逆に言うと、浮動株が80%以上の上場会社の社長は会社を自由にコントロールする事は出来なく、業績悪化が続けば社長の座を降ろされる事もあり、放漫経営を行う事ができません。

会社を効率的に回すという面では固定株の上に胡坐をかいている社長よりも優れた目線を持っていると言えるでしょう。
更に浮動株が多いという事は敵対的買収にかかる可能性も高く、その分の期待値も上がり、80%を境に『社長の心構えが違ったり、買収されたりしやすい』といった期待値から、浮動株比率が80%以上の株については利益に対して株価が上がりやすくなる傾向があると言えるのかもしれません。

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4.浮動株率にも着目した投資は面白い

今回、東証のデータをとってみて、浮動株率30%以下の銘柄と、浮動株率80%以上の銘柄についてはPERの平均が高くなり、浮動株率の増加とともに下がるという傾向がみられました。

もし仮にあなたが同じような業種、同じようなPERで投資対象を迷っていた場合、浮動株率にも着目して投資対象を選択すればより効率のいい投資選択になるかもしれません。

同じ位のPERであるならば、より浮動株比率が低い方か、もしくは殆ど浮動株の銘柄を選択するといいでしょう。

今後はPER、PBR,ROEなどの指標の他に浮動株率にも着目して、大きな収益を上げてみてください。

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まとめ

・『浮動株が少ない銘柄の方が株価は上がりやすいのか』の仮定を東京証券所取引所上場の3858銘柄から検証
・浮動株30%以下の平均PERは高く、その後浮動株率が増えるほど平均PERは逓減していくため、『浮動株が少ない方が利益に対して株価が上がりやすい』と言える可能性がある
・浮動株比率が80%以上になると逆に平均PERは高くなる傾向も
・『浮動株が少ない銘柄は上がるの?』は一定の傾向が見え、『浮動株が100%に近い銘柄』も経営効率化と敵対的買収可能性を考慮し利益に対してあがりやすいかも

著者:先ず隗より始めよ

現役金融マン。証券アナリストの資格あり。ちょっとマニアックな金融知識やニュースをわかりやすく書いていきます。