読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

噂の「トランプノミクス」。個人投資家の相場心得

f:id:manekai:20161121174933j:plain

2016年11月9日のアメリカ大統領選が実施される前、小説『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』をもじって、「もしトラ(もしもトランプ氏が大統領に当選したら)」と、半ばジョークで、金融マーケットを含めた様々な予測が飛び交っていました。

 

クリントン氏の「メール問題」も決着して、「次期大統領はクリントン氏」と多くの人が予測していました。

しかし、フタをあけてみればトランプ氏の圧勝という結果に終わりました。

 

「これから、世界情勢はどうなるんだ!」と世界中で不安の声が相次ぎ、比較的安全な資産とされる日本円に投資資金が集まった結果、急激な円高になりました。

場中だった日本の株式市場は、919円の下げ幅という大暴落となりました。

 

ところが、事態は意外な方向へ変わります。

世界が戦々恐々としているなか、「勝利宣言」でテレビ画面に登場したトランプ氏は、なんと態度も言葉遣いもまるで別人になっていたのです。

 

トランプ氏の大統領就任を不安に思っていた人々も、「もしかして、トランプ氏の政策って、意外といいかも!?」と思い直したのか、世界経済は恐慌などにはなりませんでした。

逆に、「トランプ・ラリー」「トランプノミクス」といわれる右肩上がりの状態に上向きます。

 

日経平均株価も、翌日10日にはなんと前日比1092円の回復を見せ、同じく右肩上がりの状態です。

 

今のところ暴言を封印して現実路線をとっているとされる、トランプ次期アメリカ大統領。

選挙期間中の発言は大きく覆っていることもあり、またこれからの状況が大きく変わる可能性もありますが、11月21日現在の「トランプノミクス」と、相場の状況を整理してみましょう。

なぜアメリカの金利が上がったの?

f:id:manekai:20161121174946j:plain

アメリカ大統領選挙の結果が出てから、アメリカの長期金利は右肩上がりを続けています。

11月18日には、約1年ぶりの水準である2.36%まで戻しました。

 

なぜこんなにも金利が上がるのでしょう?

それはトランプ氏が11月9日の「勝利宣言」でも最重要課題として改めて強調した、「高速道路や橋、トンネル、空港、学校、病院などのインフラ整備」でしょう。

共和党が上下両院の過半数を確保したことで、この政策が実行される見通しが高まったことも後押しとなったようです。

 

こうした大規模な公共事業を行うことを時期大統領が宣言したということは、巨額のお金が動くということです。

しかも、巨額なお金は借りてこなければなりません。

「これから借金をするぞ!」と叫んでいるようなものです。

 

金利というのは、いわば、お金のレンタル料のようなものです。

「借りたい!」という需要が増えれば、高いレンタル料(金利)でも借り手がつきますので、金利の上昇期待につながります。

金利が上がれば、その動きに連動して「インフレが起きそうだな」という期待を起こさせます。

 

一方で、国の借金の借用証書ともいえる「国債」は、高い利息を払わないと買ってもらえなくなってしまいます。

債券の価格が下がれば、トレードオフの関係にある金利は上がることになります(株価が下がると配当利回りが上がるのと同じことですね)。

 

こうしたインフレ期待が、アメリカ国債の金利にまで影響が及んでいるということです。

 

ところで、投資慣れしている人であれば、「金利が高い=リスク」と認識していることでしょう。

なぜなら、新興国の国債の金利が高いのも、信用に不安があるため、高い金利を付けないと買ってもらえないからです。

 

もし、積極財政のいき過ぎによってアメリカの財政赤字が拡大すれば、専門家が言うところの「悪い金利上昇」が起きる危険もあります。

アメリカの金利上昇で日経平均株価が上がる理由

f:id:manekai:20161114163941j:plain

先ほどの説明の通り、アメリカ大統領選挙の「ビフォー&アフター」で約1000円の暴落、回復をした日経平均株価ですが、その後も堅調に推移しています。

 

アメリカの金利上昇で日経平均株価上昇、と、当たり前のようにいわれていますが、ここは少し丁寧に見ておきましょう。

決して難しい話ではありません。

簡単に言うと、「風が吹けば桶屋が儲かる」ことなのです。

 

金利は「お金のレンタル料」のようなものだと書きました。

アメリカの金利が上がれば、「ならば、金利の高いアメリカに投資するのがオトクだね」となります。

同じようなことを考えた人たちのマネーが、アメリカに集まります。

 

アメリカの通貨はドルですから、アメリカに投資資金が集まるということは、ドルの価値が高くなります。

すなわち「ドル高」となるわけです。

 

日本円を持っている投資家ならば、マイナス金利時代の日本円でお金を持っているよりも、それを売ってドルを買ったほうがオトクです。

相対的に日本の通貨は通貨安となるので、「ドル高」に対して「円安」になります。

 

ちなみに、円高、円安は、1ドル100円なら円高、といったように数字で決まっているわけではなく、相対的なものです。

2016年11月現在の感覚でいえば、1ドル100円は円高、110円になれば円安という感覚でしょうが・・・。

 

「高い」「安い」という言葉が示しているように、円高は自国通貨の価値が高いことなので、本来は良い事といえるでしょう。

しかし、日本の産業構造を見た場合、トヨタの自動車、コマツの重機というように、ものを作って輸出する企業が「日経平均株価」の採用銘柄となっているように、輸出系の企業が多くを占めています。

 

ものを作って海外に売る企業にとって、円高による業績への影響は深刻です。

逆に、円安になれば、海外にものを売るときに有利ですから、追い風になるといえるでしょう。

 

というわけで、あくまでも「現在の産業構造で」の話ですが、「円安は日本株の株高」という連想になります。

実際、11月21日現在、海外からも含めてまだまだ日本株も買われているようです。

 

11月9日には一時的に1ドル101円台をつけた為替相場は、11月21日は111円台にまで下落しました。

アメリカの金利上昇から日経平均株価の上昇まで、何となくつながったでしょうか?

トランプ氏が「経済の破壊者」だと思われていた理由

f:id:manekai:20161121175010j:plain

振り返れば、アメリカ国内のみならず、世界中の国々が、選挙期間中のトランプ氏の発言に振り回されてきました。

 

例えば、日本の日銀のような役割をしている、アメリカの中央銀行にあたるFRB(米連邦準備理事会)のイエレン議長への批判です。

トランプ氏の発言は、FRBが低金利政策を続けていることへの批判もあれば、金利上昇を懸念する発言などもあり、正直な話、「どっちなのかよくわからない」というものでした。

 

しかし、イエレン議長への攻撃という点では一貫していたので、「トランプ氏が議長の辞任を求めるのでは?」といった声も上がり、さらには、「独立性という意味で、中央銀行はこれからどうなるのだろう?」と警戒されていたのです。

しかし勝利宣言で「アメリカの景気拡大を、強力に進めるつもり」とイメージを逆転させ、さらにはトランプ氏に金融政策を助言しているエコノミストは、「トランプ氏はイエレン議長の辞任を求めていない」と発言しました。

 

ですので、「トランプ氏は経済を破壊するのではなく、経済にとってプラスになる政策をとる」という安心感が広がりました。

トランプ氏が「当選しても何もできない」と思われていた理由

f:id:manekai:20161121175024j:plain

もう一つ、選挙中に数々の暴言を吐いていたトランプ氏に対しては、共和党の有力者も距離を置き、共和党主流派との対立が報道されてきました。

そこから「仮に大統領となっても孤立して、リーダーシップを発揮できないだろう」という見方が多かったように思います。

 

もちろんそこには、「トランプ氏が仮に当選しても、議会が抑止力になって、愚かな決定はさせない」という、希望的な観測もあったでしょう。

 

ところが、まず選挙では上院、下院ともに共和党が多数派になりました。

そしてトランプ氏自身が、打って変わって融和姿勢に態度を変えました。

 

仲たがいしていた共和党主流派に歩み寄る姿勢を示しています。

これも、選挙前には予測もできなかったことです。

 

予想外なことが重なり、両院とも共和党が主流、大統領は融和政策、という結果になりました。

つまり、強い大統領の条件がそろった、といえる状況になっているのです。

お祭り状態の金融株。理由はアメリカの規制緩和期待

f:id:manekai:20161115174443j:plain

アメリカ大統領選挙で、流れが変わったともいえる世界経済。

なかでも最も大きく変わったのは、やはり金融セクターです。

大統領選挙前の金融といえば、「マイナス金利」の不安にさいなまされていました。

金利を稼いでこその商売ですから、当然といえるでしょう。

 

しかし、アメリカが高金利になるとともに、トランプ氏は、金融機関に厳しい資本規制を課す「ドッド・フランク法(金融規制改革法)」の見直しも主張していました。

 

ドッド・フランク法とは、2008年のリーマン・ショックを発端とした金融危機を受けて、巨大銀行の監督を強めるとともに、高リスクの取引も禁止した金融規制です。

金融危機では、問題を起こしている金融機関が「大きすぎてつぶせない」という問題も起きています。

 

イエレン議長は、「この法律があることで、金融危機前に比べて金融機関の自己資本が増えたり、流動性も厳格に確保できるようになった」と異論を唱えています。

しかし、トランプ氏の政権移行チームは、「ドッド・フランク法があることで経済成長が鈍化した」として、「撤廃」と「新たな政策への置き換え」を主張しています。

 

いずれにしても、金融株には追い風となっています。

日本企業では、アメリカに子会社に持つ三菱UFJフィナンシャル・グループの株価も大幅上昇するなどしました。

また、世界経済はつながっていますから、アメリカが高金利となれば、世界各国の金融機関へも影響が及びます。

 

しかし、こうした注目は株価の過剰な上昇を招きがちです。

また、法の緩和はあくまでもアメリカ国内の話ですし、具体的に実施されることになったわけでもありません。

 

選挙戦では「反ウォール街」を訴え、クリントン氏を攻撃していたはずのトランプ氏ですが・・・。

今後の金融政策がどうなっていくのか、まだまだ読み切れませんね。

ところで、「ドル高」はどこまで許容される?

f:id:manekai:20161121175042j:plain

TPP(環太平洋経済連携協定)反対など、保護主義的政策を掲げるトランプ氏の勝利は、ドル安を招き、円高要因になるという見方をするプロもいました。

 

トランプ氏は、基本的には「アメリカ第一主義」です。

もしかすると、どこかで突然「これ以上のドル高を許容しない」という発言があるかもしれません。

市場参加者は、そこにヒヤヒヤしているのではないでしょうか。

 

アメリカでは、12月13日、14日にFOMC(米金融政策決定会合)が行われます。

経済ニュースでは動向が詳しく報道されますが、トランプ氏は過去には「アメリカの利上げは許さない」という趣旨の発言もしています。

 

FOMC は「大統領選挙後の市況を見極めたうえで、12月の会合で利上げを行うか判断する」とされてきました。

市場の予想に反してトランプ氏が次期大統領に決まったものの、市場では、「今度こそ利上げが行われるのでは?」という予測が大半を示しています。

 

トランプ氏は、昔出演していたアメリカのリアリティ番組で「ピボット」とあだ名されていたそうです。

自分の意見を簡単に覆す、という意味合いから付けられたそうですが、何とも絶妙なニックネームですね。

もちろん、「ビジネスは現実主義」ということを貫いているのかもしませんが・・・。

 

トランプ氏が利上げについて何かコメントするのか、するとしたらプラスの内容か、マイナスの内容か、あるいは沈黙を貫くのか?

日本株に影響するだけに、こちらも注目です。

注目の「自動車株」はどうなる!?

f:id:manekai:20161121175056j:plain

ところで、「トランプ氏当選」で、投資家の判断がとても難しかったのは「自動車メーカーの株」ではないでしょうか。

まず、大幅な円安となれば、日本の輸出企業の代表格である自動車メーカーには、(今は、海外に生産拠点を移しているメーカーは多いものの)基本的には追い風です。

 

しかし、問題は、選挙中のトランプ氏の「保護主義」の発言の数々です。

特に「日本の自動車」は、アメリカの保護主義の敵の象徴、のような扱いを長年受けてきました。

大昔の話ですが、アメリカの労働者に日本車が叩き壊されるという、悲しい映像を覚えている人もいるかもしれません。

 

自動車に対する懸念は2つあります。

一つはアメリカへ輸出する自動車への関税引き上げです。

これは、日本の自動車だけでなく、世界各国からのアメリカに入ってくるものに対して、ですが。

時代は変わり、今は日本というよりは中国からの輸入品が象徴になっているという背景もあります。

 

関税に対しては、今は動きがないため様子見です。

しかし、すでに日本の自動車メーカーは「貿易摩擦」の批判を受けて、アメリカ向けの自動車をアメリカ国内で生産するなどの対策をとるなどしています。

 

もう一つは「メキシコ」です。

1994年に発効したNAFTA(ナフタ、北米自由貿易協定)という協定には、アメリカ、カナダ、メキシコが加盟しています。

トランプ氏はここからの離脱を主張していました。

 

NAFTAでは、現地調達率が6割を超える自動車と自動車部品は、アメリカの輸入関税がゼロになります。

アメリカとメキシコは陸続きですから、人件費の安いメキシコで生産したほうがコスト安になるため、メーカーはメキシコに工場を移します。

それによって、「アメリカの雇用が奪われた」というわけです。

 

アメリカの企業も含めて、メキシコに生産拠点を増やす企業は増えていました。

GM、フォードなどもメキシコに工場があります。

 

日本の主要自動車メーカーも同じで、トヨタ自動車は2019年からメキシコ工場を稼動させる予定です。

しかし、生産量の全体から見れば、メキシコを生産拠点としている日本の自動車メーカーとしては、日産自動車、マツダの名前が挙がります。

 

さすがに「35%の関税はないだろう」という楽観論はあるものの、自動車だけでなく「メキシコに生産拠点を置いて、北米向け製品を作る」企業には、まだ落ち着かないところです。

 

逆に、影響を受けない自動車メーカーの筆頭はスズキです。

スズキは4年前にアメリカからすでに撤退し、インドを世界の拠点としています。

アメリカの高金利が、新興国経済に与える影響

f:id:manekai:20161121175112j:plain

ところで、「トランプノミクス」は、新興国経済にとってリスクになっているといいます。

正確に言えば、トランプノミクスが招いているアメリカの高金利によるものですが。

 

先にも述べたように、リスクが高いものの金利は高くなります。

通貨でいえば、新興国の通貨は高リスクではありますが、それだけに金利が高いので、若干のリスクをとってでも投資しようという人が現われます。

そんな状態が、新興国経済を潤しているのです。

 

FRBによるアメリカの利上げでは、こうした新興国経済への影響が心配されていました。

アメリカのような先進国の金利が高くなれば、何もリスクをとって新興国に投資しなくても、アメリカに投資したり国債を買ったりすればいいからです。

 

期せずして、トランプ氏勝利によるアメリカの金利上昇が、新興国の通貨安を招いています。

中でも、トランプ氏に何かとやり玉にあげられていたメキシコのペソ、政情不安があるトルコのリラなどの通貨が安くなっています。

 

日本のような先進国は、輸出企業が潤うので通貨安を歓迎しますが、経済が発展途上の国ではそうはいきません。

株、通貨、債券のすべてが売られる「トリプル安」に陥っている国もあるといいます。

 

アメリカの金利が高く、ドル高という傾向が続けば、新興国からの資金流出が長期化する可能性も指摘されています。

ナスダック市場はどうなっている?

f:id:manekai:20161121175124j:plain

アメリカの高金利で投資家がリスクをとらなくなると、影響を受けるのは新興市場です。

しかも、トランプ氏はアップルなどのIT企業を非難してきた経緯もあり、また、IT系企業が多くの移民に支えられていることからも、選挙中のトランプ氏の政策が本当に実行されると、アメリカのIT企業には逆風が吹くという心配がありました。

 

そうした予想が反映されたのが株価でした。

選挙後の11月10日のアメリカ米株式市場では、過去最高値を更新した「ダウ工業株30種平均」をしり目に、「ナスダック総合株価指数」は反落します。

しかし、あまりにも下げすぎた反動か、右肩上がりのほかの銘柄に比べて「割安だ」という見方が広がったからか、15日のナスダックは大幅に反発しました。

「始まり」は20171月だということを忘れず

f:id:manekai:20161121175142j:plain

トランプ次期大統領の政策が「仮にそのまま実行されれば」、という予測のもとに、恩恵を受けるとされる金融や建設機械、製薬などの、いわゆる「トランプ銘柄」が人気です。

 

しかし、ふと立ち止まってみれば、トランプ氏の就任はまだ来年の話です。

 

株式市場がいかに噂を織り込むのが早いとはいえ、まだまだ「もし」という前提の上で相場が動いていることを忘れてはならないでしょう。

 

日本は、安倍首相がトランプ氏といち早く会談して信頼関係を築こうとするなど、国内でトランプ氏に対する安心感も高まってはいます。

しかし、アメリカの影響は非常に大きく、その政策一つで世界は揺れ動きます。

日本はその「余波を受ける存在」であるという事実を忘れてはなりません。

 

イギリスのEU離脱からトランプ氏の当選という流れは、世界情勢に非常に大きな変化を起こしています。

さらに12月4日には極右候補も立候補するオーストリア大統領選や、イタリアの国民投票など、注目されるイベントも続きます。

 

こうした大きな流れを見ながら、不確かな「トランプノミクス」に乗りすぎないように、自重していきたいものです。

まとめ

・「トランプ氏当選」で金利上昇、ドル高に。しかし積極財政がいきすぎて財政赤字拡大を招くと「悪い金利上昇」が起きる危険も。

・アメリカの金利上昇で日経平均株価が上昇しているのは、ドル高・円安で日経平均採用銘柄の多数を占める「輸出企業」に追い風となっているから。

・トランプ氏が主張するNAFTA(北米自由貿易協定)からの脱退問題が、メキシコに生産拠点を持つ自動車メーカーのリスク要因になり続けている。

・トランプ氏の就任は2017年1月。不確かな「トランプノミクス」バブルに乗りすぎないように自重しよう。

無題ドキュメント