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700円から始めよう。100種類以上の香水を集めたオタクが教える、香水沼への飛び込み方

700円から始めよう。100種類以上の香水を集めたオタクが教える、香水沼への飛び込み方

はじめまして、生湯葉シホと申します。ふだんはライターとして、インタビュー記事やエッセイを書く仕事をしています。

私は趣味で「香水」を集めています。2016年ごろから集め始め、いつしか毎日違う香水をつけるほどの香水好きになっていました。ちゃんと数えられてはいませんが、現在は4~50種類ほどの香水を持っています。これまで投資した金額は、た、たぶん30万円くらい……?

香水ってすごく奥が深い趣味なのですが、難点もあります。それは、お値段が高いこと。何気なく値札を見て、「エッこの小さいボトルでこんなに!?」と驚いた経験のある方も多いんじゃないでしょうか。

いい香水のいいお値段には、私もいまだにびっくりしてしまいます。でも、試行錯誤を重ねるうちに、香水には値段に代えがたい魅力があること、そして意外にも、貴族のようなお金の使い方をしなくとも(30万円も結構使ってるぞ! と思われるかもしれませんが、かなり節約しました……)香水は楽しめる、ということに気づきました。

今回は、(まだまだ勉強不足ですが)いち香水オタクの自分なりに、「お金をそんなにかけず香水を楽しむための工夫」と、「自分へのご褒美のつもりで買った推し香水」を紹介します。そして、香水が“家の中でひとりで楽しめる趣味”でもあることを説明したいと思います。

「香水って、ちょっと気になるけどどこから手を出していいのか……」とお悩みの方にとって、すこしでも参考になればうれしいです!

「香水、超おもしろいのでは?」と気づいたきっかけ

そもそも、私が香水に興味を持ち始めたきっかけは母の影響でした。母はバブル世代ど真ん中ということもあり、還暦を過ぎた今でもファッションやコスメにかなりのお金をかける人。そんな彼女にとって、香水は数あるおしゃれの選択肢の中のひとつだったように思います。

母はゲラン(※フランスの老舗化粧品ブランド)の「シャリマー」「アクア アレゴリア」シリーズといった、オリエンタルな雰囲気の香水を愛用していました。「アクア アレゴリア」シリーズはおおよそ9000円、「シャリマー」は1万3000円ほど。価格のことは当時あまり意識しませんでしたが、「なんだかいい香水つけてるな。大人はさすがだな」とは思っていたような気がします。

10代の私は、母のそうした香水をときどき借りてつけていました。

同世代の友人がつける香水は石鹸のような清涼感のある香りか甘くてフルーティーな香りが多かったので、当時はそれだけで自分が大人になったような、背伸びをしているような気分でした。

けれど大人になるにつれ、母と同じ香水を自分で買うのもつまらない。せっかくなら自分がいちばん気に入る香りを見つけて、それを「自分の香り」にしたい……! なんてことを思うようになりました。

転機は23歳のとき。通っていたバーのマスターに、サンタ・マリア・ノヴェッラというイタリアの香水ブランドが作る、バラのリキュールを薦めてもらいました。

リキュールのグラスに口をつけた瞬間、バラの花束の中に顔をうずめているような香りにクラっときてしまい、たまらず「サンタ・マリア・ノヴェッラって、どんなブランドなんですか?」とマスターに聞きました。

すると、「世界最古の薬局のひとつで、オーデコロンを中心にボディミルクやお香も手がけてるんですよ」とのこと。それを知ったとき、(お酒好きの血が騒いだこともあり)「絶対にここの香水を手に入れたい!」と思いました。

後日、勇気を出してサンタ・マリア・ノヴェッラの銀座店に出向き、初めて買った“自分のための香水”が「エバ」

リキュールと同じローズの香りも素敵だったのですが、いろいろ試香させてもらった結果、爽やかなシトラスとすこしだけ退廃的な雰囲気のタバコがやわらかく香る「エバ」が自分の気分にいちばん合うと感じたのです。

ただ、値段は当時の私にとって、相当ハードルが高く……(1万6000円ほどだったと記憶しています)購入時は正直、血の気が引く思いでした。

サンタ・マリア・ノヴェッラの「エバ」。アダムとイヴのEvaに由来を持つユニセックスな香り


このときは「エバ」以外に手を出すつもりはなかったです。けれどサンタ・マリア・ノヴェッラとの出会いをきっかけに、エルメスやシャネルといったいわゆるファッションブランドの香水以外にも、いろいろな香水ブランドが個性豊かな香水を出していること、そして名香と呼ばれる香水の背景には、必ず伝説的な調香師の存在があることを知ったら、オタク心がくすぐられてしまい……。

気がつけば、「このブランドも気になる!」「この香水専門店にも絶対行ってみたい!!」というTo Doリストでスマホがいっぱいになっていました。

お金がないから“半年ROMる”。オタク的な香水のハマり方

けれど、気になった香水を片っ端から買えるほどのお金もなければ行動力もなく、「じゃあどうしよう?」と考えた結果、“情報”から入ることにしました。

(繰り返しになりますが)もともとオタク気質なので、香りそのものの印象と同じくらい、香水の背景にあるストーリーが気になったんです。そこで「半年ROMる」的な感覚で、半年~1年くらいの間は新しい香水を買わず、愛好家の方による香水ブログ(MR.FRAGRANCEさんによる同名のブログ、おすすめです)や定期的に刊行されている『世界香水ガイド』、エルメスの専属調香師によるのエッセイ本『調香師日記』などを読みあさりました。きなつさんという香水ブロガーさんのブログ(現在非公開)もよく参考にしていました。

『調香師の手帖』は香りの歴史や香料ごとの特徴を知るのにおすすめ。『調香師日記』はエルメスの専属調香師を長年務めた伝説的な調香師、ジャン=クロード・エレナによる香りにまつわるエッセイ


初歩的な知識とともにすこしずつ分かってきたのが、香水はどこまでも“自分のため”の趣味である、ということ。

香水と聞くと一般的には“人に会うときにつける”イメージかもしれませんが、電車や狭いオフィスの中で香水がプンプン香ると香害にもなりえます。好きな香り、心地良いと思う香りは千差万別。だからこそ、「この人香水臭いな……」と周囲の人に感じさせてしまうほどの量はつけないよう心がけると、自然と“自分だけに香る”程度の控えめなつけ方になってきます。

特に私はタバコやレザーなどちょっとクセのある(万人受けのしない)香りに惹かれやすいことも自覚していたので、好きな香りを自分だけで最大限に楽しみたい……! と考えるようになりました。

そこで、いちばんリラックスできる“自分のための時間”に香りを楽しむため、「寝香水」(寝る前に香水をまとうこと)用の香りをメインに探そう、と思うように。ここからすこしずつ、ネットや香水専門店で香水を買い集める日々が始まりました。

個人的には、香水は今のようになかなか外に出ることができない時期にこそおすすめです。仕事を始める前、ちょっと休憩するとき、寝る前……といったタイミングで香水を部屋にワンプッシュすると気分転換にもなるし、自分から好きな香りがすると、疲れていてもリラックスできるなーと感じます。

エッセンシャルオイル、香水ガチャ……そんなにお金をかけず香水を楽しむ方法

前段で「香水を買い集める日々が始まりました」とサラッと書きましたが、香水って基本的には安くありません。特に、希少な天然香料を使っているものなら、「50mlで3万円? マジ……?」みたいなことがしばしば起こります。

カジュアルな価格帯のブランドも多いとはいえ、やっぱり高い買い物であることに違いはない。だからこそ、「お店でテンションが上がって買ったはいいけれど、家に帰ってつけてみたらなんか違う……」という失敗は避けたい。

そこで、情緒のない方法で申し訳ないのですが、“当たり”だけを狙い撃ちするため、まず自分の“好きな香り”と“苦手な香り”を知ることから始めました。人気の香水や、ネットで調べてなんとなく気になっていた香水の香料(香水のオンラインショップなどにはだいたい記載があります)をチェックし、名前だけではピンとこなかった香料のエッセンシャルオイルをネットショップ(オイルの種類が多い「生活の木」のオンラインショップなどがおすすめです)で取り寄せてみました。

香水って、シングルノート(1種類の香りだけでできているもの)を除くと、基本的にはトップノート(つけたての香り)、ミドルノート(中心となる香り)、ラストノート(消える前の余韻の香り)にそれぞれ複数の香料が使用されています。香りの種類を知れば、おのずと自分の好みも分かるだろうと考えたのです。

例えば、「ミント」や「ローズ」の香りはイメージできても、「ベルガモット」や「ユーカリ」になると怪しくなりませんか? さらに「イランイラン」や「パチュリ」、「フランキンセンス」になるともう、未知……! という感じだったので、とりあえず気になったものは買って、香りを確かめてみました。5ml~10ml程度のエッセンシャルオイルであれば、アロマの専門店でもだいたい1000円以内で買えるので、そもそも香りの種類を全然知らない方にはおすすめの方法です。

私の場合は、特に好きで詳しくなりたいと感じていた樹木系の香り(シダーウッドやティートリー、サンダルウッドなど)やそもそも嗅いだことのないフランキンセンス、ミルラなどの香りを中心に10種類ほど集めました。その結果、サンダルウッドの香りが特に好きで、バイオレットや濃いローズなどの香りがやや苦手だということが分かってきました。

ラベンダーのエッセンシャルオイル。これは2500円/5mlと高めですが、肌に直接つけるロールオンタイプなので香水代わりにも使用しています


香りの種類がすこし分かってきたところで、いよいよ香水の販売店に足を運んでみました。サンタ・マリア・ノヴェッラのときのように、最初から特定のブランドに心を決めていくのも素敵なのですが、いろんなブランドのいろんな香水を試したいときには、やっぱり百貨店の香水フロアや、香水のセレクトショップに行くのがいちばん。

多くのお店にはムエット(匂い紙)が置いてあり、スタッフさんに声をかけると、実際に香水をムエットや肌に乗せてもらえます。好きな香りのタイプや気分で選ぶのもいいし、「ボトルがかわいい!」みたいな直感で選んでもいいと思います。もちろんコスメや洋服と同じく、試したからには買わなきゃいけないということはまったくないので、気になる香りがあったらムエットだけいただいておいて、家でじっくり検討するのもあり。

ムエットはこんな風にビニールに入れてもらうと、香り同士が混ざらないで数日間持続します


東京では伊勢丹新宿店本館(※5月14日現在、臨時休業中です)のフレグランスコーナーがとにかく香水の種類が多いのと、スタッフさんにも香水マニアの方が多くて安心(?)です。ニッチな香水ブランドの香水のみを扱うNOSE SHOP(※5月14日現在、臨時休業中です)も、新宿NEWoManや東急プラザ銀座などに店舗があり、同じくスタッフさんのマニア率が高くておすすめです。

ただ、お店に足を運べなかったり、そもそも家の近くに香水専門店がない方もいらっしゃると思います。そんな方には、最近充実してきている、香水のオンラインショップがおすすめ……!

例えば、前述したNOSE SHOPのオンラインストアでは常時30ブランドほどの香水を取り扱っているだけでなく、1本1.5ml~2mlほどのミニボトルを、どんな香水が入っているか分からない「香水ガチャ」として、ひとつ700円で販売しています。好きな香りが当たれば大きなサイズを買ってみてもいいし、あんまり好みじゃない香りだった場合も、次からの香水選びの参考になります。

NOSE SHOPでは不定期でミニサイズの香水を安く販売(こちらはランダムではなく好きなものを選べます)しているので、気になる香りやブランドがある方はチェックしておくといいと思います。

ミニサイズは香水を買ったときの試供品などでも手に入るので、コツコツ集めていたら100種類くらいになってきました。よくつけるものはアクセサリートレイに入れています


個人的に大好きな京都・東山のフレグランス専門店、LE SILLAGE(ルシヤージュ)も4月からオンラインストアをオープンされたようで、こちらでは香水の販売はもちろん、気になる香りがあればオンラインでの相談やムエットの送付も受け付けるとのこと。

私はここ数年、こんな感じでミニサイズの香水の購入やムエットでのお試しをしつつ気になる香りを増やしていき、特に忘れられない香水を「ご褒美」としてときどき買う、というルールでやってきました。

私の「推し香水」を語らせて

すこしだけ、最近の「推し香水」について語らせてください(ふたつあります)。

ひとつめが、日本発のフレグランスブランドTOBALI(トバリ)の「TWILIGHT ROMANCE(トワイライトロマンス)」。「夜の帳が下りる」の“帳”という言葉にかけた、「秘める美」がコンセプトのブランドです。

TOBALIの香水のボトルやパッケージは全て白で統一されていて、美しい……!


「TWILIGHT ROMANCE」は昨年の秋に発売された、白檀と金木犀がベースの香り。初めて肌に乗せたとき、嗅いだことのない唯一無二の香りなのになぜかすごく懐かしい、と感じました。

人からは「甘くてすごくいい香り」と言ってもらえるのだけれど、どことなく切ない感じもする……。夢の中でシャボン玉を吹いたらこんな香りがするんじゃないかな、と思うような、ノスタルジックでたまらない香りです。この香りが好き過ぎて、「お願いだからちょっと嗅いで!」と頼んで友達に家に来てもらったこともあります。

それからもうひとつの推しが、私の母も愛用していたブランド、ゲランの「ボワ ダルメニ」。チュベローズやバニラ、ローズなどの希少な天然素材を使い、名だたる調香師たちが調香した「ラールエラマティエール(“芸術と素材”)」というコレクションの中の一作です。

アルメニアの森をイメージしたという「ボワ ダルメニ」は、甘さと暖かさのあるウッディ系の香り


「ボワ ダルメニ」に出会ったのは今年の始め、新しい香りを探していたときのこと。いろんな香水を試香する中で、私は「深い森の中を歩いているような、ヒノキやマツのウッディな香り」「東洋のお香やスパイスの混ざったような、オリエンタルな香り」「甘過ぎないバニラの香り」が好きだなーと分かってきたのですが、ゲランの香水カウンターでこの香りを肌に乗せてもらったとき、「好きな香り全てをミックスした香水だ……!」と大興奮してしまいました。

3万2000円(75ml)という価格を聞いてさすがにひるみ、ムエットだけを一度家に持ち帰って検討したのですが、「香水好きなら、ひとつくらいはこんな香りをお守りとして持っていたい……!」と思い、3カ月ほどの貯金ののちに購入(交際費にあたるお酒代や、趣味の雑貨などを買うお金を削りました)。

今はこれを寝香水にしているのですが、枕にこの香りを吹きかけるたびに「買ってよかった……」と心から思います。この文章を書いている今も「ボワ ダルメニ」をつけていて、5分に1回くらい手首を嗅いではニコニコしています。

お財布にもやさしい! 高コスパのおすすめ香水

最後に、香水のことが気になり始めたばかりの方や香水沼に落ちたてホヤホヤの方に向けて、私が好きな香水の中で、「人とかぶらない」かつ「そこまで高くない」ものをご紹介します。

まずは、フランスのアロマブランド、kerzon(ケルゾン)のオードトワレ(※香水は香りの濃度の高い順に、パルファム、オードパルファム、オードトワレ、オーデコロンに分類される)。

私が最近よく使っているのはココナッツとプルメリアの香りの「太陽」。海辺で太陽を浴びて咲く花のような、甘くて夏らしい香りです。パッケージが本当にかわいい!


Kerzonのオードトワレはもともとルームスプレーとして作られたものを香水にアレンジしたという背景があるためか、どれも嫌味のない香り。しかも、4500円(100ml)と、ニッチなフレグランスとしてはかなりの安さ。ポップなパッケージもかわいくて、私はここのサシェ(匂い袋)やランドリーソープ(液体洗剤)を人にプレゼントすることが多いです。

Kerzonのオードトワレの中で、個人的に好きな香りを挙げるなら、「ヴォージュ広場」。パリでもっとも古い広場「ヴォージュ広場」を取り囲むレンガ造りの建物と、そのベランダに咲くバラをイメージしたというこの香水は、朝の澄んだ空気の中を散歩しているときのような控えめなフローラル系の香りです。

それから、同じくフランスの香水ブランド、Histoires de Parfums(イストワール ドゥ パルファン)のオードパルファムもおすすめ。

1890、1969など、4桁の数字がついたコレクションは、有名人や物語のキャラクター、神話をモチーフにした香水。例えば「1828」なら冒険家のジュール・ベルヌの生まれ年、「1904」ならオペラの蝶々夫人が初演された年にちなんでいます(こんなの嫌いなオタク絶対いないですよね?)。珍しく15mlというやや小さめのサイズを販売しているブランドで、価格も4950円(15ml)というありがたさ。

このシリーズはパッケージが本のようになっているのも推しポイント。かわいくて、小説と並べて本棚に飾っています


私のお気に入りは小説家のジョルジュ・サンドをイメージした「1804」。トップノートは驚くほど強いパイナップルの香りなのだけど、徐々に落ち着いたウッディな印象に変わっていく、二面性のある面白い香水です。

「高いかも」と躊躇せず、まずは香水沼に飛び込んでみよう

香水はまったくお金のかからない趣味です、と言えば嘘になります。私の周りの香水フリークの方々には、ひと月の生活費の中に「香水費」を組み込んでいらっしゃる人もいます。質の高い香水をできるだけたくさん集めたいなら、やっぱりそれなりにお金はかかるとは思います。

けれど、(私もですが)「香水を買うのはワンシーズンに一度のご褒美」と決めたり、ミニ香水をたくさん集めて日替わりでいろいろな香水をつけるような楽しみ方なら、お財布にそんなに打撃はないはず。

香りの記憶ってとても強いので、一度好きな香水に出会えると、香水をつけていないときもその香りのことを思い出して幸せな気分に浸れるなーと思います。私もまだまだ香りの初心者で、いつか肌に乗せてみたい……! と憧れているだけの香水が山ほどあるのですが、長い時間をかけて楽しめる趣味ができたことはうれしい限り。

みなさんもぜひ「自分の香り」を探してみてください! なかなか外に出られない今日この頃ですが、素敵な香りがあることで、家で過ごす時間がすこしでもホッとするものになったらいいな、と思います。

1992年生まれ、ライター/エッセイスト。共著に『でも、ふりかえれば甘ったるく』(PAPER PAPER)。

編集:はてな編集部