スゴ本の中の人が選んだ、1万円で“一生モノの教養”を身につけるための5冊

スゴ本の中の人が選んだ、1万円で“一生モノの教養”を身につけるための5冊

「わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる」の中の人、Dainと申します。

今回はお金で買うことのできる一生モノの自己投資になる本をご紹介したい。

現金や不動産、貴金属からビットコインまで、財産は盗られたり目減りしたりする恐れがある。だが、頭の中の財産は、誰も奪うことができない。すなわち、知や教養は、いったん頭に蓄えたら、一生涯あなたのものとなるのだ。

ここでは、あなたの知となり教養となる入口として、お薦めの本を選んでみよう。とはいっても、ただ選ぶだけでは面白くない。だから、日本の知を担う大学の最高峰、東京大学に務める教師が選んだ「アンケート・東大教師が新入生にすすめる本」から、合計1万円で買えるものをピックアップした。

「アンケート・東大教師が新入生にすすめる本」*1では、東京大学で毎年春に行われる新入生のためのブックガイドとして、エンタメから啓蒙書まで多種多様な本が紹介されている。お薦めする方もさまざまで、ガチの基本書を熱くプッシュする人もいれば、「これ面白いよ~」と緩く推してくる人もいる。かれこれ20年以上も続いており、のべ2,000冊以上が紹介されている。

その膨大なリストから、「複数の先生から何度も紹介されている」「学問分野に関係なくお薦めできる」「長く読み継がれている」もの、そして「読んで面白い」ものを基準に選んだ。それでも100冊はゆうに超える。だから、さらに「全部買っても1万円」という縛りをつけた。この1万円は投資だ。自分の頭に投資して、あなたの知となり肉となる1万円なのだ。

『論理トレーニング101題』野矢茂樹/産業図書/2,160円

論理トレーニング101題

  • 作者: 野矢 茂樹
  • 出版社/メーカー: 産業図書
  • 発売日: 2001/5/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

実技で徹底的に「論理的思考」を養う

これはガチ。問題を解いた後に解答と照らし合わせることで、「論理的に考える」ことを、徹底的に鍛えてくれる。



そこらに転がっている、自己満足になるだけの安直なビジネス書とは違う。そんな本の説明をいくら読んだって、「分かった気分」になるだけなのだから。だからエンピツとノートを準備して、本書を紐解いて、1問1問、順番に取り組むべし。ただ、実技あるのみ。



本書は2部で構成されており、前半は、接続詞に注意して議論を読み取り、その骨格をつかまえるトレーニングになっている。そして後半では、演繹(えんえき)と推測の適切さを論証した上で、議論を批判的に捉える訓練をすることができる。101問全ての問題を解き、答え合わせをし、解説を読んで理解を深める。これをくり返す。やればやっただけ身につく。



例えば、「次に含まれる論証の隠れた前提を取り出せ」という問題がある。



1. テングダケは毒キノコだ。だから、食べられない

2. 「さっき彼と碁を打ってただろ、勝った?」 「いや、勝てなかった」 「なんだ、負けたのか、だらしないな」

3. 吠える犬は弱虫だ。うちのポチはよく吠える。だから、うちのポチは弱虫だ

1. は簡単だ、「毒キノコは食べられない」という前提が隠れている。「A=B、B=C、ゆえに、A=C」の論証のうち、「B=C」が省略されたもの。



2. は少し考えると、「勝ってない≠負け」に気づく(囲碁だと持碁、将棋なら千日手)。



3. は分からなかったので解答を見たら、頭をガツンとやられた(誰もポチが犬とは言っていない)。解説を読んでさらに驚く。自明視されている前提が、 ときに誤りの元凶になる。独善的な論証ほど、問題のある前提が隠されているというのだ。これすなわち、詭弁術のイロハ。



本書は、いわゆる議論に「勝つ」ためのハウツーではない。相手の立論を正しく読み取り、その論証を批判的に捉えるための地道なトレーニングなのだ。論理の力を底上げしよう。

『理科系の作文技術』木下是雄/中央公論新社/756円

理科系の作文技術

  • 作者: 木下 是雄
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 1981/9/22
  • メディア: 新書

一生モノの「書く力」「読む力」「考える力」が身につく必読書

「理科系の」とあるが、文系、理系は関係ない。大学生の論文・レポートのための技術だが、大学生に限らず一生役に立つ。なぜなら本書のエッセンスは、「書く技術」だけでなく「読む技術」、さらには「考える技術」にも効いてくるから。



本書では、そもそも「事実とは何か」から定義している。事実とは、「自然に起こる事象や自然法則、過去の事件などの記述で、しかるべきテストや調査によって真偽を客観的に確認できるもの」を指す。



そして、「事実の書き方」と「意見の書き方」まで指南してくれる。「分けて書く」とは、分割して書けというだけではない。その記述が事実なのか意見なのか、読み手に分かるようにすることが重要なのだ。それぞれのポイントを読み進めるうちに、「事実のフリをした意見」を見分ける目が養われるとともに、その罠を回避する具体的な方法が身につく。



また、「トピックセンテンスを書け」という項目についても是非とも触れておきたい。事実であれ、意見であれ、伝えたいアイデアを一文にまとめた文章が「トピックセンテンス」である。通常はパラグラフの冒頭に置き、続く文章でトピックセンテンスを展開したり支えたりすることで説得力を持たせる。



トピックセンテンスは、いわばレポートの「骨」に当たる。伝えたいことの焦点を合わせる文章だ。最初にトピックセンテンスだけの一覧表を作り、「従って」や「しかし」などの接続詞をつなげるだけで「アブストラクト*2」が出来上がる。



これは、読む方にとっても有益だ。接続詞に注意しながら、トピックセンテンスを拾うことで、ロジックを追うのが容易になる。重要なポイントを読み取るときは、トピックセンテンスが「全体の中のそのパラグラフの位置」を示す羅針盤となる。いわゆる、「構造化された文章」の本質は、ここにある。



構造的に考えることができるようになれば、その文章の何が「意見」であり、どこが「意見を支える事実」であるのかという、パラグラフ同士の関係性が明確になる。批判的に考えるときであれば、「意見を支えるものとして、その事実は適正か」という観点や、「事実から飛躍した意見になっていないか」といった視点で、そのレポートを検証することができる。



学生、社会人関係なく必読かつ一生モノ。「書く」だけでなく「読む」技術、さらには構造的に「考える」まで応用が利くオールマイティーな技術をモノにしよう。



『銃・病原菌・鉄』(上)(下)ジャレド・ダイアモンド/草思社/1,944円(上下巻合計)

『銃・病原菌・鉄』(上)(下)ジャレド・ダイアモンド/草思社/1,944円(上下巻合計)

銃・病原菌・鉄

  • 作者: ジャレド・ダイアモンド,倉骨彰
  • 出版社/メーカー: 草思社
  • 発売日: 2012/02/02
  • メディア: 文庫

「世界を知る」楽しさと喜びを味わう


「なぜヨーロッパが世界の覇者となったか」を解き明かしたスゴ本(=凄い本)。



今ある富や権力の格差の原因は、民族間の生物学的差異ではなく、地誌的・環境的なものだという。すなわち、人類史をどれだけ繰り返しても、地形や気候などの環境要因が同じである限り、今「ヨーロッパ」と呼ばれている場所にいる人が覇者となる。初期設定チートかよと思うが、これが本書の結論だ。



なぜそう言えるのか? この結論に向け、文明を陸塊で捉える巨視的な目と、微生物と家畜とヒトの関係を分析する微視的な目、さらには数千~数万年を駆け巡る時間軸を駆使し、縦横無尽に説明している。そのフィールドは、遺伝学、分子生物学、進化生物学、地質学、行動生態学、疫学、言語学、文化人類学、技術史、文字史、政治史、生物地理学と多岐にわたり、膨大なアプローチからこの謎に迫る。



多彩な学問分野にまたがり、大量のデータを駆使して論証されるため、ともすると迷子になるかもしれない。だが心配無用、タイトルの「銃・病原菌・鉄」が効いてくる。ヨーロッパ人によるアメリカ大陸の征服は、「銃・病原菌・鉄」で成し遂げられた。ヨーロッパの優位性は、銃で殺し、結核で殺し、鉄剣で殺した血の歴史に象徴される。



では、なぜヨーロッパ人が「銃・病原菌・鉄」を手にできたのか。「銃」や「鉄」であれば、複雑な構造を持つ機器を製造できる技術の発達があり、その技術者を支えるだけ人口が稠密(ちゅうみつ)で大規模な社会がある。そしてその背景には、社会を支える余剰食糧、すなわち栽培植物や家畜の存在がある。さらに、多くの家畜は、病原菌に免疫を持つ集団の広がりをもたらし、耐性を持たない人々にとっての生物兵器と化す。



では、なぜそうした技術の発達や大規模な社会の構築が成し得たのか。それは、適性のある野生種が豊富に存在し、技術が伝播するだけの「横方向」への広がりがあったから。家畜であれ農作物であれ、緯度を大きくまたがると、気候が変化することにより、移植や伝播が難しくなる。そのため、作物や技術の伝播は、緯度に沿って「横方向」へ広がりやすい傾向になる。すなわち、地球規模で見た場合、「横方向」への広がりが大きい場所こそが、技術や文化や作物が伝播・蓄積しやすいのだ。



では、栽培や飼育に適した肥沃(ひよく)な土地が「横方向」に広がっている場所はどこか? 著者はここで、視点を一挙に上昇させる。陸塊で見た場合、アフリカ大陸は縦方向に長く、ユーラシア大陸は横方向に広がっている。つまり、横方向への広がりが大きいユーラシア大陸こそが、技術や文化や作物が蓄積しやすい。これが、人類の格差の究極の要因になるという。



かいつまんでいるため、かなり乱暴なまとめになっているが、本書ではエビデンス(根拠)重視で、緻密かつ大胆に議論している。「なんでヨーロッパであってインドや中国でないのか?」というツッコミや、「やっぱり日本は例外なの?」という疑問は、ご自身の目で確かめてほしい。



人類史をシミュレートしながら、巨視的な目と微視的な目、そしてスケール自在な時間感覚に酔うべし。知ることの楽しさと、知ったことが結び合わさってゆく面白さ、巨人の肩から世界を知る喜びを味わおう。



『統計はこうしてウソをつく』ジョエル・ベスト/白揚社/2,808円

統計はこうしてウソをつく―だまされないための統計学入門

  • 作者: ジョエル ベスト
  • 出版社/メーカー: 白揚社
  • 発売日: 2002/11/01
  • メディア: 単行本

真贋を見極める目を手に入れる



嘘は3種類あるのをご存じだろうか。普通の嘘と、真っ赤な嘘と、統計だ。



マーク・トウェイン*3のこの言葉に、笑うか納得したならば、本書は読まなくてもいい。だが、ピンとこない人は“カモの適性”があるといえる。統計に加え、最近ならビッグデータやAI(人工知能)なども含かもしれない。「データによると」の枕詞で思考停止する“カモ”になる前に読んでおきたい。



統計がいかに恣意的になされ、曲解され、独り歩きしているかが、さまざまな事例とともに丁寧に説明されている。不適切な一般化、都合のいい定義づけ、暗数を使った詐術、「数」と「率」を使い分ける方法、アンケート・コントロールなど、ありとあらゆる統計的詭弁が紹介されている。



例えば親が子どもを殴って殺した事件が発生し、メディア側がそれを報道した後に「これは児童虐待の一例です」と説明すれば、センセーショナルな“演出”で視聴率を稼ぎつつ問題の深刻さを訴えることができる。



その結果、視聴者は「子どもが殴り殺される」最悪の事例を典型的なものとみなし、問題を極端な形で捉えることになる。実際のところ、そうした事例は少数派で、むしろネグレクト(養育拒否・放置)の方がはるかに多い。だが、親に殺されることを児童虐待と定義してしまうことで、児童保護政策を実態と離れた方向に誘導することができる。



あるいは、高等学校の学力テストの事例。他国と比較して学力テストの成績が低いと報じられることが多々あるが、前提が誤っている。ほとんどの子どもが高校へ進学する国と、優秀な生徒が選ばれて高等教育を受ける国を比べても、そもそも比較にならない。にもかかわらず、なぜか平均点をそのまま比較して自国をこき下ろす。学力テストに限らず、福祉制度の充実度やワークライフバランスの国際比較において、こうした“演出”を見ることができる。



あらゆる統計はポジショントークである。統計には必ず“意図”があり、それを読まずに鵜呑むのは愚の骨頂なり。情報の受け手は数字を事実と考えるかもしれないが、本当のところ、発信者が事実に意味を持たせるのだ。そしてその意味は、発信者のイデオロギーで決まってくる。



数字は嘘をつかないが、嘘つきが数字を使う。知的自衛のために、真贋を見極める目を養おう。

『カラマーゾフの兄弟』(上)(中)(下)ドストエフスキー/新潮社/2,721円(各巻合計)

カラマーゾフの兄弟

  • 作者: ドストエフスキー,原卓也
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1978/07/20
  • メディア: 文庫

最高峰の小説で、濃厚かつ強烈な体験を

東大教師が新入生に一番お薦めしているのは、『カラマーゾフの兄弟』だ。



過去20年にわたり、のべ2,000冊を超える中で、たくさんの先生から何度も「読め」とプッシュされている推し中の推しは、これだ。



一生のうちに読むべき小説を、一つだけ挙げよと問われればこれだし、人生について知るべきことは、全てあるという人もいる。ウィトゲンシュタイン*4が50回精読したといい、村上春樹がこれまでの人生で巡り合った最も重要な本の一つだという“カラ兄”は、小説の最高峰といえる。



なぜこれか? 手に取ってみれば分かるが、もの凄く濃厚なのだ。 平積みされた小説が希釈されたジュースなら、これは濃縮された原液をゲル状になるまで煮詰めているどろり濃厚、ゲルルンジュース!。そこには、ありとあらゆる欲望が書いてある。



権力欲、支配欲、愛欲、性欲、意欲、我欲、禁欲、強欲、財欲、色欲、食欲、邪欲、情欲、大欲、知識欲、貪欲、肉欲……登場人物であるアリョーシャの、ドミートリーの、イワンの、そしてフョードルの持つ、気高いものから残酷なものまで、欲望のカーニバルといっていい。それぐらい濃厚だ。



さらに登場人物みんな、これでもかというくらい、よくしゃべるしゃべる。息継ぎする間もないくらい、緻密かつ延々と語りだす。登場したからには語り尽くさにゃならんとばかりに、感じたこと、批判、予想、先回りした反論、詭弁、言い逃れ、威嚇を、他者だけでなく独り言も含め、徹底的に話すのだ。みんなの声・声・声のシャワーを浴びているうちに、それぞれのキャラが立ち、トピックが重なり、物語が転がっていく仕掛けになっている。お風呂で湯あたり・食べ物で食あたりするように、“カラ兄”で声あたりするかもしれない。それぐらい強烈だ。



そして、読み終わっても解放してくれない。「大審問官」の章で、イワンがアリョーシャに突きつける「この世に神がいるのなら、なぜ無垢な子どもがかくも残酷な運命に遭わなければならないのか」という問いに、長い間のたうち回ったものだ。読み終わってから10年悩んで一応の解は得たが、イワンの「神がいなければ、全てが許される」というセリフは、いまだに刺さったままだ。



信仰、生と聖と性と死、国家、貧困、虐待など、さまざまなテーマを孕み、手に汗握る推理小説とも読めるし、涙なしにはページを繰れない家族愛の小説とも読める。純粋無垢な恋愛小説の一面もあり、国家と英雄を極める思想小説の部分や、有神論 vs 無神論のガチ対決の宗教小説の側面も持つ。いかようにも、何度でも、どこまででも読める。



濃厚かつ強烈。人生にわたって持続する影響を受けるだろう。濃度、強度、深度、どれをとっても最高の、小説のラスボスを読むべし。


これで5作の紹介はおしまい。合計すると、消費税込みで10,389円となる。端数はおまけしてほしい。これらは「自分の底力を上げる」「オールマイティーな技術をモノにする」「巨人の肩から世界を知る喜びを味わう」「真贋を見極める目を養う」「濃厚かつ強烈かつ人生にわたって持続する影響を受ける」という要素のある、あなたの人生を豊かにする5作だ。



教養の目的が、人生を豊かにすることであるならば、この1万円の投資は、間違いなく一生モノの、あなたの教養への糧となる。



そして、もしこれら5作に匹敵・凌駕するスゴ本(凄い本)をご存じなら、ブログやTwitterを通じて、是非とも教えてほしい。



なぜなら、わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいるのだから。

ブログ「わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる」 の中の人。気になる本を全て読んでる時間はないので、スゴ本(凄い本)を読んだという「あなた」を探しています。

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*1:東京大学出版会のPR誌『UP』で紹介される毎年の恒例企画。その結果をまとめた書籍『東大教師が新入生に薦める本』も東京大学出版会・文春春秋から発売されている
*2:要約
*3:アメリカの作家
*4:オーストリア出身の哲学者

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