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その一口で"奇跡のような体験"を。3,000円台から始める「ワイン」沼への道

その一口で"奇跡のような体験"を。3,000円台から始める「ワイン」沼への道

精神医療の内側と外側を見比べているうちに、13年以上ブログを書き続けていた精神科医の熊代亨といいます。今日は医療のことではなく、私の趣味の1つであり、どんどんとのめりこんでいく世界……「ワイン」沼の話をしたいと思います。

唐突にうかがいますが、あなたはワインを心の底からおいしいと思ったことがありますか。

ワインはしばしば、味わうためというより、豊かさのシンボルや特別な日を演出するためのアイテムとして食卓に上がります。パーティーシーンなどでよく見るシャンパンタワーやクリスマスに飲むワインなどは、その最たるものでしょう。

実際、ワインは大した飲み物です! 優れたワインはおいしいだけでなく、なかなか飲み飽きることがありません。自分の味覚や嗅覚が冴えていくかのような摩訶不思議な潜在力を、ワインに感じることもあるでしょう。

興味深い人と話しているといつまでも飽きないのに似て、興味深いワインもまた、人を飽きさせることがなく、興味の渦へとどんどん引きずり込んでいくものなのです。世界のワイン愛好家は、こうしたワインの奥深さや潜在力に期待を寄せ、大枚をはたいていると言っても過言ではないと思っています。

少し高いドイツワインを飲んで、ワインのおいしさに衝撃を受ける

私は20代前半にワインと出会いましたが、当時は何がおいしいのかさっぱり分かりませんでした。特に赤ワインは渋くて苦かったので、敬遠していたほどです。どうにか飲めたものといえば、甘口で口当たりもきつくない、ドイツ産の甘口ワインぐらいなものでした。
 
ところがある日、臨時収入で買った3,500円ほどのドイツワインを飲み、驚いてしまいました。「こいつ、やたらと香りが良いし、なんだかすごく複雑な味で、いつまでも飽きないぞ!?」と。

思えば、運の良い出会いでした。というのも、ドイツワインはワイン初心者でも比較的おいしく飲める上に、普通のグラスでも香りや味を楽しみやすいジャンルだったからです。

この出会いがきっかけとなって、私はワインの潜在力をもっと知りたいと思うようになり、12年ぐらいの間に2,000本近いワインを飲んできました。10年前からは飲んだワインを専用ブログに記録し、全て思い出せるようにしています。

ワインに限らず、1つの体験が1つの趣味に変わるきっかけには、何かしらの驚きや感動が必要でしょう。「もう一度あの驚きを!」「あの体験は一体何だったんだろう?」といった気持ちがなければ、人間は体験にお金や手間暇をかけ続けません。
 
ではワインの場合、どのワインをどのように飲めば驚きや感動に出会えるでしょうか?

グラスと3,000円台のワインから世界を変える

ワインにありがちな渋味や苦味が不得手な人にとって、ワインで驚きや感動を得るために乗り越えるハードルは低くないように思われます。ということで、そういった人でもおいしさを実感しやすいと思われるワインを、私が実際に飲んだ中から紹介します。

が、その前に、ワインの味や香りをしっかり捕まえて楽しむためのアイテムについて触れておきます。

ワインを楽しむ上で「グラス」はとても大事

ワインを楽しむ上で重要なアイテムにもかかわらず、初心者ほど素通りしてしまうもの。それはズバリ、ワイングラスです。

ワインのおいしさや魅力は、大体4割が味覚に、6割が嗅覚に由来すると私は考えています。そう思うと、この6割を余すところなく楽しむためには、香りをためやすいワイングラスが必須なのです。

ワイングラスの画像

こちらは、私がワインを楽しむ上で使っているもの。写真の真ん中にあるような、口がキュッとすぼまっている大きめのグラスにワインを60~100mlほど注いでクルクル回すと、グラスの内側に香りがどんどんたまっていきます。そうすると香りをたっぷりと吸い込むことができるのです。

逆に言うと、小さなグラスでワインの魅力を確かめるのは難しく、少なくとも初心者にはあまりオススメできません。小さなグラスでワインを出しているワインバーがあったら、ちょっと警戒した方がいいかもしれません。もちろん例外もあって、小さなグラスでも構わない場合もあるにはあるのですが……。

ともあれ、大振りのグラスにワインを注いだら、まずは香りをギューッと鼻に吸い込んでみましょう。小さなグラスとは比べものにならないくらい香りを感じられるはずです。口に運ぶのは香りに飽きてからでも構いません。アルコールが回ってしまったら、香りに鈍感になってしまう人もいますからね。

初心者でも飲みやすい、3,000円台のおいしいワイン

ワインは温度によって味や香りが変わりますが、これから紹介するワインは室温で飲んでいただいて大体OKです。白ワインは冷やしても構いませんが、冷やし過ぎると香りが立ち込みにくくなってしまいます。ちなみに、ワインは日本酒以上に高温に弱いので、冷えた場所で保存してください。夏場は特に気を付けましょう。

で、肝心のワインですが、ワイン沼を目指すスタート地点として、私は3,000円台のものをオススメしたいです。なぜなら1,000円台のワインには、コスパが良くても初心者には難しい品、飲み飽きてしまいやすい品が多いからです。

大雑把に分けると、白ワインは酸味があって爽やかでフルーティーな飲み心地、赤ワインは渋味や苦味があってコクのある飲み心地なのですが、初心者にとって多くの白ワインは酸味がきつく、赤ワインは渋味や苦味が強いと感じるものも少なくありません。これらはワインを飲み慣れている人には気にならない特徴ですが、飲み慣れていない人には引っかかりどころになりがちです。

初心者向けの白ワインとしては、私はイスラエルの「ヤルデン・シャルドネ」を推します。ハチミツ、バター、クッキー、ときにはミネラルっぽい香りが立ち込めてくることでしょう。酸味もそれほど強くありません。
 
赤ワインが平気な人はもう初心者ではない気がするので、赤ワインにまだ慣れていないという前提で1本オススメするなら、カリフォルニアの「ブレッド&バター ピノ・ノワール」はどうでしょうか。

この赤ワインは、初心者キラーである渋味や苦味が極限まで抑えられているだけでなく、濃厚な果実のフレーバーに加え、バニラやチョコレートのような香りをしっかり堪能できます。嗅覚が冴えているときには、雨の日の森のようなオーガニックな芳香も捕まえられるかもしれません。これより素晴らしい赤ワインはたくさんあれど、渋味や苦味に慣れていない初心者向けの赤ワインは、ざらにあるものではありません。
 
甘口でなきゃだめ! という人には、かつての私に気付きを与えてくれた、ドイツのクロスター・エバーバッハ醸造所で造られている「シュタインベルガー・リースリング・シュペートレーゼ」をオススメします。よく知られているドイツの白ワイン「マドンナ」や「シュヴァルツカッツェ」と飲み比べてみれば、品質の違いにあんぐりと驚くことでしょう。ただ、今から10年前に比べると値上がりしてしまったので、3,000円台では手に入りにくいかもしれません。

そういうときは、同じくクロスター・エバーバッハ醸造所が造る、“弟分”の「シュタインベルガー・リースリング・カビネット」を選ぶという手もあります。シュペートレーゼに比べると少し酸味が強いですが、口当たりのいいドイツワインの片鱗に触れることはできます。
 
これらのワインはお値段に見合うかそれ以上の実力を持ち合わせているので、ガブガブと飲んでしまうのはちょっともったいないように思います。私なら、週末の夕方あたりから、香りや味を確かめながらじっくり飲むでしょう。そういう飲み方をしていれば、ワインの特徴の1つである「時間がたつにつれて香りや雰囲気が変化していく様子」にも気付きやすいからです。初めて口にした翌日以降もしっかり楽しめるワインだったら、それは「あなたにとって最初のリピートワイン」にふさわしい1本ではないでしょうか。

「もっと良いワインに出会いたい」と思ったあなたにオススメしたい、ワイン沼に進む3つのルート

まずは3,000円台のワインで「ワインっていろいろな香りが楽しめるし、味もいけるじゃないか」と思うようになり、お好みのワインをリピートするようになったら、もうワイン沼に入りかけています。そして「もっと良い香りや良い味のワインに出会いたいな……」という欲が出てきたら、もう、どこからどう見てもワイン沼の住人です。

では、ワインに興味を持ち始めた人が、ここからどのようにワイン沼へ溺れていくのか。方向性はいくつかありますが、その中から3つのルートを提案してみます。
 
1つ目は、気に入ったワインをひたすらリピートして身体に記憶させる道。お気に入りのワインにしっかり慣れておくと、他のワインとの違いが分かりやすくなります。比べるという行為は理解を生み、理解は興味を生むことでしょう。ワイン専用の記録アプリ「Vinica(ヴィニカ)」やブログなどに味や香りについて書き残すのが面倒だ、という人にもオススメです。

2つ目は、同じメーカーの同じぶどう品種で作られたワインを初級品・中級品・上級品の順番に飲んでみるという道。どうして同じぶどう品種なのに値段の差があるのか、その値段の差が香りや味にどう反映されているのかを確かめようとすれば、これに勝る方法はありません。

ワインの画像
(左から)「ヤルデン・シャルドネ」「ヤルデン・シャルドネ・オデム・オーガニック」「ヤルデン・カツリン・シャルドネ」


先ほど紹介したイスラエルワインのヤルデン・シャルドネには、まさにぴったりのラインアップがあるのでオススメです。まずは初級品として「ヤルデン・シャルドネ」を味わい、続いて「ヤルデン・シャルドネ・オデム・オーガニック」「ヤルデン・カツリン・シャルドネ」と進んでいくといいでしょう。

ワインの画像②
(左から)フランス・ブルゴーニュ産「ドメーヌ・ルフレーヴ バタール・モンラッシェ」、イタリア・トスカーナ産「テヌータ・サン・グイドサッシカイア」、フランス・ボルドー産「シャトー・パルメ」 


3つ目は、いきなり2万円前後の高級ワインでガツンと殴られてみることです。後でも触れますが、実は高級ワインの大半はかなり面倒くさい嗜好品で、ヴィンテージ(収穫された年)・熟成期間・飲むときの温度など、いろいろな条件がそろっていなければなかなか本領を発揮してくれません。

しかし、アメリカ・カリフォルニア産の上物を大振りのワイングラスで飲む分には、まず間違いなく“良さ”を感じられます。「キスラー・ダットン・ランチ」や「カレラ・ジェンセン」は、高級ワインの中では適当に扱っても期待に応えてくれる部類で、それでいて飲む者をびっくり仰天させるパワーを秘めています。あなたの体調次第では、嗅覚や味覚がパワーアップしたような気持ちになったり、自分の頭が良くなったような錯覚を覚えたりと、とにかく素晴らしい体験を得られることでしょう。
 
高級ワインの中では打ち解けやすい部類とはいえ、やはり高額ですし、その香りや味にびっくりするためには、多少なりともワインに親しんでおく必要があります。ですが、先ほど紹介した3,000円前後のワインたちに慣れていれば、まず大丈夫です。3,000円前後の価格帯でリピートワインを作っておき、比較的フレンドリーなカリフォルニア産の高級ワインに挑戦するのが、ワイン沼への最短ルートではないかと思います。

ワインに慣れてきたら、少し上級者向けのこんな楽しみ方も

ワインの画像③
ブルゴーニュ産「ドメーヌ・ミッシェル・グロ ブルゴーニュ・オート・コート・ド・ニュイ ブラン」


もちろんこれは、ワインに不慣れな人、とりわけ赤ワインの渋味や苦味が不得手な人を想定しての最短ルートです。あなたがフランスワインやイタリアワインにすっかりなじんでいるなら、そちらから進んでも構わないでしょう。赤ワインの渋味や苦味が気にならない人にとって、フランスのボルドー産やローヌ産の赤ワインは宝の山です。同じく、ブルゴーニュ産やアルザス産の白ワインも魅力的でしょう。軽視されがちなボジョレー産にも、香りや味の素晴らしい品は隠れています。
 
とはいえ「これからワインを知っていきたい」という人が、フランスワインやイタリアワインを沼のスタート地点にするのはなかなか大変かもしれません。これらの産地のワインは、しばしば渋味・苦味・酸味に容赦がないからです。ワイン慣れしている人には平気でも、不慣れな人をひるませるワインがゴロゴロ存在しています。その上、フランスワインやイタリアワインはヴィンテージや熟成期間による揺れ幅が大きく、ともすれば、せっかく買ったのに鳴かず飛ばずで終わってしまうリスクもあるのです。
 
あなたの嗜好をよく知っていて、飲み頃のワインを選んでくれる専属アドバイザーがいれば、こうした面倒くささは解決できますが、1人でスタートする場合は注意が必要です。
 
また、特にフランスワインは、似たような名前のメーカーがいくつもあったり、似たような名前のぶどう畑がズラズラと出てきたりして、初心者にはまぎらわしいところがあります。せっかく素晴らしいワインを見つけたのに、メーカーやぶどう畑の名前がほんの少しだけ違っている別物を買ってしまってガッカリ……なんて失敗もありがちです。近年はフランスワインが値上がりしていることもあって、まあその、敷居の高い世界だなぁと思います。
 
ところが恐ろしいことに、ひとたびフランス方面のワイン沼にはまってしまうと、今まで覚えられなかったまぎらわしいメーカーやぶどう畑の名前が、自然と頭に入ってくるようになるのです!フランスワインに惚れ込んでしまった人は、試しに自分が惚れたワインが載っているガイドブックを買ってみてください。書かれている知識がスルスルッと入ってきたり、もっと違ったワインが欲しくなってきたり、ワインを飲んだ記録を整理したくなったりするかもしれません。
 
フランスワインやイタリアワインの、特に高級路線に挑戦したい気持ちが高ぶってきたら、ここらでワイングラスを買い替える、というのも1つの手です。大振りのワイングラスさえあれば基本的には十分なのですが、高めのワイングラスを買うと、もっと限界まで香りを引き出すことができます。

おすすめは、RIEDEL(リーデル)が販売する「ソムリエ ブルゴーニュ・グラン・クリュ」。高さが約25cmもあるので、割れないように注意深く扱わなければなりません。扱いにくく思うかもしれませんが、性能は十分。価格も2万円台と高いですが、価値はあります。

ブルゴーニュ地方の特級ワインを意味する「ブルゴーニュ・グラン・クリュ」と銘打たれてはいるものの、実際はほとんどのワインを大体おいしく飲めます。一般的には細長いグラスで飲むシャンパンをこのグラスで味わってみるのも面白くて、意外なほど香りや味を楽しめます。

ワインは「待つこと」も楽しめる趣味

ワインの画像④
イタリア・トスカーナ産「バンフィ ポッジョ・アローロ ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ・リゼルヴァ」


欲望と好奇心の赴くままにワインを飲んで回って行きつく先は、どのような境地でしょうか。ワインの世界は山のように大きく、海のように深いので、どんな境地でも構いやしません。
 
最初に紹介したヤルデンやブレッド&バターは十分においしいワインですし、誰かにワインを振る舞わなければならないときにもきっと喜んでもらえるでしょう。これらをリピートワインとして繰り返し楽しむのもワインの道ですし、同価格帯のライバルたちに挑み、飲み比べていくのも楽しいものです。2,000~5,000円前後の価格帯には、バラエティーに富んだ素晴らしいワインたちがひしめいています。
 
キスラーやカレラのような高級ワインにガツンとやられてすっかりとりこになってしまった人は……まあ、それも人生ではないでしょうか。嗅覚や味覚がパワーアップしたかのような体験、自分の頭が良くなったかのような体験が忘れられない気持ちは、私にもあります。そして世界にはもっと高額で、もっと底知れないワインも存在しますから、ワイン沼の深さは“無限”と言って良いでしょう。
 
ただ、どういう形でワインを楽しむのであれ、私はワインの香りや味をしっかり楽しめるようなお付き合いの仕方をオススメしたいです。
 
味や香りを楽しむための道具や知識が必要だと感じたら、最低限のものにはアクセスしましょう。特に、大振りのワイングラスはワインに対する認識を大きく変えてくれます。長くワインと付き合っていくなら、自宅に一脚あって損をすることはないはずです。
 
そして、酩酊や虚栄心のために飲むより、嗅覚や味覚のため、奇跡のような体験のために飲んでいただけたら、1人のワイン沼住人としてはうれしいところです。そうすれば、おのずと節度あるワインとの付き合い方になるからです。
 
かくいう私も、ワイン沼の住人になってからは、飲み方や体調管理に気を付けるようになりました。せっかく良いワインを飲むなら、体調を良くしておかないと香りや味が分からないし、二日酔いになるような飲み方ではワインに申し訳無い気がします。ワインをいたわり、ワインをとことん楽しもうと思ったら、自分自身をいたわり、自分の健康にも目を向けなければなりません。

ワインセラー画像
ワインセラーに保存しているのは、今から5〜15年後が飲み頃だと思われる、まだ若いワインたち。産地はフランスのボルドーやブルゴーニュ、イタリアのトスカーナなど。


ワイン沼がいよいよ極まってくるうちに、ワインセラーを買って、奇跡のような体験のボトル詰めを保存しておきたい、などと思うようになるかもしれません。こうなると、ますます自分の健康が気になってきますね。

「飲むこと・買うことだけでなく、待つことも楽しみの1つ」というのは、ワイン独特のものです。ワインと自分自身の未来に思いを馳せながら日々を過ごしていると、時の流れに対する感覚も変わってくるかもしれません。ワインセラーに眠らせたワインが熟成して、いつかおいしく飲めるハレの日が来ることを願いながら、毎日を生きていくのです。

身の回りにある飲み物に比べると決して安いとは言えませんが、ワインは奥が深く、深く立ち入ればそれだけの体験で報いてくれる趣味だと思います。どうか節度を守って、健康に気を付けながら、良いワインライフを。

執筆者のプロフィール
熊代亨

「診察室の内側の風景」とインターネットやオフ会で出会う「診察室の外側の風景」の整合性にこだわりながら、ブログ『シロクマの屑籠』で現代人の社会適応やサブカルチャーについて発信中。通称“シロクマ先生”。近著は『「若者」をやめて、「大人」を始める 「成熟困難時代」をどう生きるか?』(イースト・プレス)『認められたい』(ヴィレッジブックス)など。

編集:はてな編集部